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ドラゴンオーブを探し、アリーシャ達はスルス火山洞窟を探索していた。カルスタッドの住民の話によると、火山洞窟の最深部に何かを 祭ってあったような祭壇があるというのだ。その情報を頼りに一行は襲い来る魔物を倒しながら奥に進んで行った。
道のりは険しかった。足下には岩が転がり、かなり足場が悪い。おまけにすぐ横を流れる溶岩のせいで洞窟内の気温は暑く、蒸し風呂のようだった。
過酷な環境に体力を削られ、アリーシャの歩みが止まった。暑さで意識が朦朧としたアリーシャの身体が傾いた。
「危ない!」
後ろから伸びてきた腕が倒れそうになったアリーシャを支えた。アリーシャは焦点の合わない目で相手を見上げた。萌える緑色の瞳が心配そうに彼女を見下ろしている。
すらりとした長身に、白いローブ。剣士が身に着けるような頑丈な肩当てと手甲を着けている。アリーシャはこの青年に見覚えがあった。確か、ここでマテリアライズしたエインフェリアだ。名前を思い出そうとしたが駄目だった。
「大丈夫か?」
アリーシャは返事をしようとしたが、声が掠れて出なかった。身体中が燃えるように熱いのに、何故か冷や汗が流れる。青年がアリーシャの身体に腕を回し、軽々と抱きあげた。そのまま岩場の陰に運んで行く。岩場の陰に着くと、青年はアリーシャを下ろした。アリーシャはぐったりと岩にもたれかかり目を閉じた。
ひんやりとした布が額に当てられ、アリーシャは目を開けた。青年が屈みこみ、彼女を覗きこんでいた。
「呪文で作った氷だよ。食べて」
青年から氷を受け取り、口に含む。ゆっくりと口の中で氷を溶かし、飲み込むと少し元気が出た。
「ありがとうございます…」
「よかった……少し休もう、いいね?」
「そんな…暇はありません…!」
「駄目だよっ!」
立ち上がった途端足がもつれ、アリーシャは彼女を支えようとした青年諸共地面に倒れた。
「いたた…」
気がつくと青年の顔がすぐ近くにあった。アリーシャが彼に馬乗りになるような格好で、二人は地面に倒れていた。甘く整った端正な顔が、驚いたように彼女を見上げていた。
「ごっ…ごめんなさいっ…!!」
横たわったまま青年がアリーシャを引き寄せ、抱き締めた。柔らかな茶色の髪が頬に触れ、掌越しに青年の固く引き締まった胸の感触が伝わってくる。
「えっ…あのっ…!?」
「静かに…!側に魔物がいるんだ…このままやり過ごそう…」
耳を澄ますと、微かに足音が聞こえた。どうやらすぐ側に魔物がいるようだ。息を殺し、二人は身を潜めた。しばらくすると足音は遠ざかり、気配は消えた。
「もう大丈夫だよ」
二人は身体を起こし、肩を並べて地面に座った。青年は立ち上がると、岩の陰から辺りの様子を確認した。安心した息を吐くと青年が振り返り、苦笑しながらアリーシャを見た。
「今更何だけど…自己紹介がまだだったよね。俺はファーラント」
ファーラントが微笑み、右手を差し出した。
「あっ…私はアリーシャといいます…よろしくお願いします!」
アリーシャは慌てて手を伸ばし、ファーラントと握手した。よく見ると、ファーラントは片方の手だけに白い手袋を嵌めていた。アリーシャは自分が握り締めている布を見た。それは、ファーラントが嵌めている手袋だった。彼は自分の手袋を濡らし、彼女の額に当ててくれていたのだった。
「あのっ…これ!」
「え?ああ、そうだったな…すっかり忘れてたよ」
「私…迷惑をかけて…」
不甲斐ない自分に腹が立ち、じわりと目尻に涙が滲んだ。ファーラントの長く、しなやかな指がその涙を優しく拭ってくれた。彼の指はそのままアリーシャの髪を慰めるように梳いていく。ファーラントはアリーシャを抱き締め、幼い子供をあやすように背中を撫でた。
「泣かないで…君が泣くと俺まで泣きたくなるよ」
張りのある低音の声が耳元で囁くように言った。
アリーシャは頷いた。ファーラントの背中に腕を回し、しがみつく。身体と身体が触れ合い、ファーラントの温かい体温が伝わってくる。
その温かさに、身体が、心が溶けていく。
その囁く声はきっと魔法を唱えたんだわ。
恋という名の魔法。
アリーシャは一目で恋に落ちた。 |
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