街での自由行動中、アリーシャ達三人の女性陣はオープンカフェのある店でくつろいでいた。
「だからぁ!さっさと告白しちゃえばいいのよ!!」
 興奮した様子でフィレスが丸いテーブルを勢いよく叩いた。その拍子に、テーブルの上にあるカップの中身が零れそうになる。
「でも…彼に迷惑ですよ…」
 アリーシャが蚊の鳴くような声で言った。淡い色のスカートをぎゅっと握り締める。ケーキの上にのっている赤い苺にフォークを突き刺すとフィレスはそのまま口に運んだ。
「アイツ、結構女の子にモテるのよ〜?本人は気がついてないようだけど、ね?姉さん」
「何で私に話を振るのよ…アンタは」
「だってさぁ…ファーラントはラッセン領主の息子で、領主の妻だった姉さんの義理の息子になる訳でしょ?」
 すらりとした脚を組み、セレスが溜息をついた。カップに手を伸ばし、紅茶を一口飲む。
「それはそうだけど…まぁ、確かに彼は女性に人気があるわね」
「そうでしょ?ほら、アリーシャ、早くしないとティリスや姉さんにファーラントを奪われちゃうわよ?」
「えぇ…?」
「待ちなさいよフィレス!…どうして私の名前が出てくるのかしら?」
 椅子の背もたれにもたれかかり、腕組みをしてセレスがフィレスをぎろりと睨みつけた。顔は笑っていたが、目は笑っていなかった。彼女が持っているカップの取っ手がみしりと鈍い音を立てる。
「私は今もあの人を愛している。彼に気なんて全然ないわ」
「お固いこと言うわね。それは生前の事なんだからいいでしょ?」
「…フィレス…どうやら、少しお仕置きが必要みたいね?」
 姉妹の間で見えない火花がバチバチと飛び散った。どうやら、事の当事者であるアリーシャは完全に忘れられているようだ。
 アリーシャは二人の間に入り、必死に仲裁した。そのせいで、背後から近づいて来た青年にまったく気がつかなかった。
「楽しそうだね。何を話してるんだい?」
 深みのある温かい声と同時に、アリーシャの肩に手が置かれた。心臓が高鳴り、身体全体が麻痺したように動かなくなった。頬が熱くなるのが解り、後ろを振り向くのが怖かった。
「やっほー。相変わらず、元気そうね」
「こんにちは、奇遇ね。貴方こそ、何をしてるの?」
「俺?図書館に行った帰りだよ」
「よかったらアタシ達と一緒にお茶しない?アリーシャが是非そうしたいって」
 意地悪い笑みを浮かべ、フィレスがアリーシャを見つめてきた。
「フィ…フィレスさんっ!!」
「王女が?嬉しいなぁ。じゃあ、お言葉に甘えて……」
 大きな音を立てて、アリーシャが椅子から立ち上がった。三人は驚いて、彼女を見つめている。
「わっ…私っ…これで失礼しますっ!!」
 一礼すると、アリーシャは風のように立ち去った。ファーラントは呆然と立ち尽くしていた。


「…俺の逃げ足より速いや…」
「とりあえず…座ったら?」
 セレスが促すと、ファーラントはアリーシャが座っていた椅子に腰を下ろした。困り果てた顔でファーラントが口を開いた。
「…俺、王女に嫌われてるのかなぁ…」
「うん」
「フィレス!!…どうしてそう思うの?」
「俺が話しかけても顔をそらされるし…側に行こうとするとすぐに離れていくし…避けられてるみたいなんだ。このまま俺がいたら王女が嫌がるだろうし、シルメリアに頼んで解放してもらおうかな…」
 フィレスとセレスが同時に立ちあがり、テーブルを叩いた。その音の大きさに驚き、ファーラントは目を白黒させている。
「しっかりしなさい!ファーラント!貴方は誇り高きラッセン領主の息子でしょう!?ウジウジしない!!」
「そうよ!元白の英雄!!アリーシャとちゃんと話してからそういう事を言いなさい!!」
 元は余計だとファーラントはツッコミたかったが、今言えば彼女達の怒りに火に油を注ぐだけだろう。瞬時にそう判断し、大人しく従うことにした。
 それに、俺も一度、アリーシャ王女とちゃんと話したかったしな。
「わかった、そうするよ。ありがとう!フィレス、セレス様!」
 ファーラントは立ち上がると、アリーシャを捜しに走って行った。二人は息を吐くと、椅子に座りなおした。
「世話が焼けるわね」
「ほーんと!英雄様も恋愛には勝てないようねぇ。さ、お茶の続きでもしましょ!」
 アリーシャとファーラント。
 二人の恋は、
 未だ発展途上。