The truth and bond
ファーラントは荒れ果てた大地の上に立っていた。そこには何もなく、灰色に染まった空が広がっているだけだ。人の気配もなく耳が痛くなるほど静かだ。
身体に違和感を感じ、ファーラントは自分の両手を見た。すると両手が乾いた土のようにポロポロと崩れ落ちていく。それは全身にへと広がっていく。
「うわあぁぁぁっ!!」
叫び声をあげて、ファーラントは目を覚ました。石造りの天井が視界に入る。
(今のは…夢?…そうだ確か両手が崩れて…)
ファーラントは自分の両手がちゃんとあることに気づき、安堵の息を吐いた。指も動き感覚もある。
「あれは…何だったんだ?」
ノックの音が聞こえ、部屋のドアが開いた。アリスが顔を覗かせた。心配そうな顔だ。
「目が覚めた?」
アリスが入ってきた。手に持ったポットから爽やかな香りがする。
「うん。ここはどこだい?俺達は奉竜殿にいたはずじゃ…」
「ここはクレルモンフェランよ。倒れた貴方を背負って戻ったの」
アリスがカップをファーラントに渡した。ファーラントはそれを受け取り、ゆっくりとハーブティーを飲んだ。懐かしい味だ。母親の作ったハーブティーを思い出す。
「そっか…俺、皆に迷惑をかけちゃったな。ところで…皆は?」
「ルルーとキースは部屋で休んでるわ。エルドは…わからないの。街を散歩してくるって言ってたけど…」
アリスが寂しそうに言った。エルドと一緒に街を散歩したかったのだろう。ファーラントはカップを机に置くと、元気よく起きあがった。
「よし!エルドを捜しに行こうぜ!」
「え?でも…もう平気なの?」
「バッチリさ!さ、行こうよ!」
ファーラントの元気な姿を見て安心したのか、アリスは頷いた。
「じゃあポットを返してくるからちょっと待っててね」
アリスがドアを閉めた。彼女の足音が遠ざかっていく。ファーラントは身体を丸め、床に蹲った。激しく咳きこむ。
「ううっ…ふざけるな…ドラゴンオーブ…俺はまだ…」
アリスの声が階下から聞こえた。身体がだるく、力が入らない。
「あの人との約束を…守るんだ…」
だるさを堪え、ファーラントは身体を起こした。部屋のドアを開け、階段を下りていく。宿のカウンターの前でアリスが待っていた。ファーラントは無理に笑顔を浮かべた。
「エルド捜しに出発だ」
二人はエルドを捜して街を歩き回ったが、エルドはなかなか見つからない。
「何処に行ったんだ?アイツは…」
「もういいわ。宿で待っていましょう」
「!?てめぇら、あの時のガキ!?」
二人の背後からいかつい声が聞こえた。二人が振り向くとそこには二人の男がいた。二人とも大柄で、一人は顔に大きな傷があり、もう一人は顎鬚を生やしている。
アリスとファーラントはその二人に見覚えがあった。ローランドと出会った町で、彼に成敗された二人組だ。
「まさかこんな所で出会えるなんてなぁ…あの騎士の兄ちゃんはいないようだな。あの時の借りを返させてもらうぜ!」
髭の男がジリジリと詰め寄ってきた。握り拳をつくり、今にも殴りかかりそうだ。
「かかってこいよ!あの時みたいに返り討ちにしてやる!」
アリスを庇うようにファーラントが前に出た。二人の男の顔が、激しい怒りで歪む。突然胸に激痛が走り、ファーラントは地面に蹲った。口に手をあて、激しく咳きこむ。
「ファーラント!?」
ファーラントの手を見て、アリスの顔が青くなった。彼の白い手袋が鮮血で染まっていた。
「何だ?このガキ。威勢がいいだけじゃねぇか…少し痛い目にあわせねぇとな…」
髭の男が近くの壁に立てかけてあった鉄の棒を手に取った。棒を構え、まだ蹲っているファーラントの頭めがけて振り下ろそうとした。
その時、男の太い腕を誰かが掴んだ。髭の男は腕を動かそうとするが、びくともしない。
「…やめないか。子供相手に大の大人が…みっともない」
男の腕を掴んでいたのは一人の青年だった。濃紺の魔術師のような服を着ている。茶色の長い前髪が顔を覆い、表情はよくわからない。自分の倍ほどはある男の腕を軽々と掴んでいる。
「なっ…何だ!?てめぇは…!!」
「わからないのか?…やめろと言っているんだ」
一瞬青年の青灰色の目が、血のような赤い色に染まった。髭の男は震えながら後ずさりした。
「ばっ…化け物!!!」
髭の男と傷の男は慌てて走り去って行った。アリスは呆然とその場を見ていた。
「大丈夫か?」
「は…はい。ありがとうございます…」
「…彼は大丈夫じゃなさそうだな」
青年がチラリとファーラントを見た。ファーラントは苦しそうに呼吸をしていて、顔色も悪い。
「君、あそこのベンチまで歩けるか?」
青年が少し離れた所にあるベンチを指差した。ファーラントは頷き、よろけながら立ち上がった。アリスと青年がファーラントを支える。
アリスは青年の顔をじっと見つめた。どこかで見たような気がするのだが、思い出せない。
(この人は一体…でも…どこかで見たような…)
ファーラントはベンチに座ると、ぐったりともたれかかった。さっきよりも顔色は良くなっている。
「ファーラント…気分はどう?」
「ん、もう平気。心配かけてごめん」
ファーラントの元気な様子を見て、青年が少し微笑んだ。青年の微笑みを見てアリスは彼が誰であるか思い出した。
「僕はこれで失礼するよ…」
「待ってください!!」
立ち去ろうとする青年をアリスが呼び止めた。青年は足を止め、振り返った。少し迷惑そうな顔だ。
「貴方は…アレン・オレイカルコス…ですよね!?」
「アレン・オレイカルコス…!?ロゼッタの宮廷魔術師だった…!?」
青年の顔色が青白くなった。二人を警戒するように睨みつける。
「…何故僕の名を知っている!?お前達はロゼッタの手先か!?…くそっ、子供だと思って油断した…」
「違います!!私達はロゼッタの手先じゃありません!!エルド王子の…仲間です!!」
エルドの名前にアレンが反応した。きつく二人を見る目が和らいだ。
「…エルドを…知っているのか?彼は…どうしてる?元気なのか?」
「元気だよ!今は国を出て俺達と旅してるんだ」
「国を出た?…どういうことなんだ?」
アリスとファーラントは今までの経緯をアレンに話した。全てを聞いたアレンの顔は、驚きに満ちていた。
「君達を疑ってすまなかった。でも驚いたな…世界を救う旅をしているなんて…」
「アレンさん…。貴方はグールパウダーを飲まされてロゼッタを追放されたんですよね?私、貴方は死んだはずだと思っていました…」
「…僕も自分は死ぬんだなと思っていた。けど、僕は生きていた。身体は不死者、魂は人間という不完全な存在になっていたんだ」
アレンは自分を嘲るように笑った。目にかかる長い髪を払いのける。
「彼女…ソフィー王妃が病で亡くなったことは風の噂で聞いた。エルドのことが凄く心配だった。だけど僕はもうこの世にはいないことになっている…君達はエルドの仲間だったね?彼は元気か?」
アレンの表情が親が子供を心配する顔になった。アリスは優しく微笑み、頷いた。
「はい。ちょっと無愛想なところもあるけど…優しくて……いい子です」
「そうか…エルドはもう一人じゃないんだね…。よかった…」
いつの間にか、空は澄んだ青から深い紺色に変わり、鮮やかな夕焼けに染まろうとしている。
「君達さえよければ…もう少しエルドの話を聞かせてくれないか?」
「エルドのことなら俺に訊いてよ!俺はアイツの親友だからね!」
「私も…及ばずながらお話します」
アレンは微笑み、ベンチに腰をおろした。
そのころエルドは、街の高台にいた。転落防止の柵に寄りかかり、夕焼けに染まった白い街並みを眺めていた。後ろに人の気配を感じ、エルドは振り向いた。
「…何故お前がここにいる?」
エルドの後ろに立っていたのはザイオンだった。冷たい笑みを浮かべ、エルドを見ている。エルドは折り畳み式の弓を展開し、構えた。
「まぁ、待ちなよ。今日は君と争いに来たわけじゃないよ。君に面白いことを教えてあげようと思ってね」
「面白いこと…だと?」
「そう。君の大好きなアリスちゃんと彼女の大好きなキース君のことだよ」
「…大好きなは余計だ」
「教えてあげるよ。彼女達が何故、ロゼッタを強く憎むかを…」
ロゼッタを強く憎む、その言葉にエルドの心臓が高鳴った。そしてザイオンは語り始めた。アリスとキースの過去を…。
街の広場のベンチでアリス達はアレンと楽しく話していた。日は暮れ、空は鮮やかな夕焼けに染まっている。
「そうか…アリスとエルドは恋人同士なんだね」
「そっ…そんな関係じゃ…」
アリスが顔を赤くしながら慌てて否定した。彼女の隣に座っているファーラントが快活に笑った。
「正直になりなよアリス。エルドのこと、好きな…あれ?エルド…?」
ファーラントが広場の反対側を指差した。アリスとアレンは彼が指差した方向を見た。黒い服を着た小柄な少年がゆっくりと歩いて来る。その姿を見て、アレンの表情が悲しげに曇った。
「僕は行くよ。君達と話せて楽しかった」
「え?アレンさん!?」
「君達はアスガルドを目指しているんだったね?なら、精霊の森にある狭間の洞窟を目指すんだ。…それとエルドには僕が生きているということは内緒にしてくれ」
ベンチから立ち上がるとアレンは、風のように立ち去った。アリスとファーラントはベンチから立ち上がると、こっちに歩いて来るエルドに歩み寄った。
「エルド!捜したのよ。少し冷えてきたから宿に戻りましょ……」
突然エルドが腕を伸ばし、アリスの肩を掴んだ。アリスが驚いてエルドを見た。エルドの顔は伏せられ、その表情はわからない。
エルドが顔をあげた。今にも泣き出しそうな彼の顔を見た二人は、言葉を失った。
「どういうことだ!?お前は…お前とキースは何故オレと一緒にいるんだ!?」
怒りを必死で抑えた声でエルドが言った。肩を掴む手に力がこもる。
「エル…ド…?一体何を言ってるの…?」
エルドがアリスを見た。深い紫の瞳は怒りで震えている。
「ザイオンから全て聞いた。…お前とキースがロゼッタに滅ぼされた一族の生き残りだということを!」
アリスは自分の心臓が激しく鼓動を打つのを呆然と聞いていた。ついにこの時がきてしまったのだ。
「ほ…本当なのか?アリス…」
「本当だ」
聞きなれた声がした。声の主はキースだ。ルルーと一緒に歩いて来る。
「キース?ルルーはもう大丈夫なの?」
「うん。ボク、全部思い出したんだ。皆に話そうと思って、キースと皆を捜しに来たの」
「ルルー、ごめんね。先に私から話していいかしら?…キース…もう隠し通せないみたい…」
「ああ…いずれ、この時が来ると思っていた。エルド、全てを話そう」
キースがエルドを見た。濃い青の瞳は強い決意の光を宿している。エルドはアリスを掴んでいた手をおろすと、弱々しく頷いた。
「私の本当の名前は、アリス・ムーン・アルヴィト。ロゼッタ王朝に滅ぼされたアルヴィト王家の王女よ」
「私はマッキース・アプ・アスカロン。アルヴィト王家に忠誠を誓う、アスカロン一族の末裔だ。私の一族もロゼッタ王朝に滅ぼされた」
「あれは…十年前のことだったわ。私達の国に突然ロゼッタが攻めてきた。私はお父様とキース…マッキースに助けられてなんとか生き延びたの。私は、何年か各地を旅して生きていく為の知識や剣の腕を磨いた。そして、ロゼッタに復讐するために花売りとして暮らしながら、その機会を窺っていた」
アリスの話が終わると、マッキースが話し始めた。彼の目は、昔を思い出しているかのように曇った。
「私はこの十年間ずっとアリスを捜して旅をしていた。彼女は生きている、そう強く信じて私は探し続けた。アリスを見つけた時、私は驚いたよ。私達一族の敵であるロゼッタの王子と一緒にいたのだから…」
「なら!!」
エルドの叫びが広場に響いた。紫の瞳から涙が溢れている。
「なら何で!!憎いはずのオレについて来た!?憎いのなら今ここで殺せばいいだろう!?旅の中でオレを殺せばいいのに!!」
「エルド…!私も最初は貴方が憎かった!!でも…私は…エルド、貴方が…好きなの!!この想いに気づいてから、私の中にあった憎しみが消えていった…。私は…もうどうしたらいいか分からない…!」
アリスが泣き出した。エルドは何も言えずに立ちつくしている。
「エルド、私も君が憎かった。だが…君と旅を続けていくうちに私の中で何かが変わっていくのを感じたんだ。今なら…言える…エルド、私は君を信じている」
誰も何も言わず、しばらくの間静寂が辺りを包んだ。その静寂を破り、ルルーが口を開いた。
「皆…ボクの話も聞いて…」
辛いことを思い出したのか、ルルーの手が震えた。だが、ルルーはそれを堪えると、話し始めた。
「ボクはルルー・エラ・テロメア。二百年前に世界樹の暴走で滅んだ、テロメア王国の生き残りなんだ」
その場にいた全員がルルーを見た。皆、信じられない、という表情をしている。
「ボクは母様に冷凍睡眠装置にいれられて、二百年間ずっと眠ってたんだ。そのおかげでボクは、生き残った。寝すぎちゃって、記憶を失くしたのかな?アハハ……」
そう言い終えたルルーの目から涙が零れた。笑って誤魔化そうとするが、涙が止まらない。
「ボク…ずっと探してたんだ…自分の帰る場所を…。でも場所なんか何処にもなかった!!家族も…故郷も…」
ルルーは泣きながら、話し続けた。鼻声になりうまく話せないが、必死で言葉を繋げる。
「でもボク…寂しくなんかないよ…。エルドやアリス、ファーラントにキースがいるから…。もう…泣かないよ…。ボクの居場所はここなんだもん…」
「話してくれてありがとう…ルルー。そうよ、貴女の居場所は私達がつくるわ」
アリスが優しくルルーを抱きしめた。ファーラントも優しくルルーの頭を叩いてやる。
「はは…何やってんだよ…オレは…ルルーやアリス、マッキースのほうがオレよりも辛いのに…。なのに、オレは…ガキみたいに…泣いて…」
そう呟くと、エルドは踵を返し走り去った。慌ててエルドを追おうとするアリスを、ファーラントが止めた。
「俺が行く。皆は宿で待っていてくれ。…大丈夫。エルドは必ず俺が連れて帰るからさ!」
言うと、ファーラントはエルドを捜しに走って行った。アリスの表情が曇る。
「マッキース…私…」
「君の言いたいことはわかっている。エルドを捜しに行きたいんだろう?」
「ボクは平気だよ!マッキースと宿屋で待ってるよ。」
「ありがとう!マッキース、ルルー!」
アリスは走り出した。赤いリボンが揺れる。すぐにアリスの姿は見えなくなった。
マッキースとルルーはしばらくその場に立っていた。
「愛の力って凄いね、えっと、マッキース」
ルルーを見下ろして、マッキースが微笑んだ。
「キースで構わないよ、ルルー」
マッキースの優しい笑顔を見たルルーの頬が赤くなった。
「う…うん…でも…いいの?」
「ああ。さあ、宿に戻ろう」
そう言い歩きだしたマッキースの服を、ルルーが引いた。
「エルド…大丈夫かな…」
「ファーラントとアリスがついている。大丈夫だよ」
「うん……」
「私は…彼を信じている。きっと立ち直ってくれる」
「そうだよ!エルドは強いもん!」
マッキースとルルーは宿屋に戻って行った。エルドは必ず戻ってくる。
そう信じて…。
ファーラントは時折胸に走る激痛を堪えながら、エルドを捜し、走り回った。街の高台にエルドはいた。エルドがザイオンから全てを聞かされた場所だ。
ファーラントはゆっくりとエルドに近づき、声をかけた。エルドがゆっくりと振り向いた。その顔は蒼白だ。
「エルド…戻ろう、皆心配してるよ」
ファーラントが優しく、エルドの細い腕を掴んだ。エルドはその手を振り払い、後ろに下がり叫んだ。
「お前もアリスも…何でオレに優しくするんだ!?いつもいつも……もうオレに構わないでくれ!!放っておいてくれ!!」
「俺はエルドの親友だ!心配して当たり前だろ!?」
「…馬鹿かお前は…そう思ってるのはお前だけなんだぞ?」
「…それでもいい。けど、俺は約束したんだ。お前を…守るって…」
ファーラントがエルドを見つめた。静かだが、強い眼差しで。
「…ファーラント…」
「エルド!!!」
アリスが走って来た。必死で走って来たのだろう、苦しそうに呼吸を整える。
「ここにいたのね…二人とも足が速いから…」
アリスがエルドに近づいた。エルドはアリスと距離をとろうと、少し後ろに下がった。
「エルド…今まで隠していてごめんなさい…。でも、信じて。私もマッキースも貴方を憎んではいないわ」
そう言うとアリスは、短剣を取り出した。リボンをほどき、短剣を髪にあて引いた。根元からぷっつりと切られた金色の髪が夕日に照らされ、輝きながら散っていく。
「アリス!?」
エルドとファーラントが同時に叫んだ。アリスは二人を見つめて、微笑んだ。
「これでアルヴィトの王女アリスはいなくなったわ。ここにいるのは只の花売りのアリス」
エルドがゆっくりとアリスに近づき、抱きしめた。アリスは驚いて、赤くなった。
「エ…エルド…!?」
「…馬鹿だな…皆。本当に馬鹿だよ…」
しばらくエルドはアリスを抱きしめていた。彼女を離すと、エルドは力なく俯いた。
「ごめん…」
「そのセリフはまだ早いよ。宿に戻ってからだ!」
「そうよ!マッキースとルルーが心配してるわ。」
「ああ…そうだな…戻ろう」
三人は並んで歩き出した。アリスがそっと、エルドの手に触れた。指を絡ませ、エルドと手をつなぐ。エルドはその手をほどかなかった。
二人の視線があった。紫と水色の視線が絡み合い、二人は自然と微笑んだ。
(アリス、オレも…好きだよ。お前のことが……)
アリスの手の温もりが心地良かった。
三人が宿屋に着いた頃には、空は濃い藍色に染まっていた。エルドが宿の扉を開けようとした時、扉が勢いよく開け放たれルルーが飛び出してきた。マッキースも出てきた。
「お帰り!…アリス!?その髪どうしたの!?」
「何かあったのか?大丈夫か?」
アリスは二人を安心させるように微笑んだ。
「大丈夫よ。気分を変えようと思って。それに、髪が長いと邪魔でしょう?」
「…本当に大丈夫なんだな?」
「ええ」
アリスとマッキースはお互いを見つめあった。二人の間にルルーが頬を膨らませ、割って入る。
「ボク、心配してたんだからね!」
「ごめんね、ルルー」
エルドはゆっくりとマッキースに歩み寄った。大きく息を吐き、エルドは口を開いた。
「…ごめん、マッキース。オレは自分だけが辛いと思っていた。けど、アリスやマッキース、ルルーはオレの何倍も苦しい思いをしていたんだな…まだオレが憎いのなら憎んでもいい。だから、ザイオンを追う旅についてきてほしい」
エルドは自分の思いをマッキースに話した。マッキースは静かに、エルドの話を聞いていた。
「エルド、君の思いはよくわかった。それに、私は言ったはずだ。君を信じていると。だから私は最後まで君の旅につきあわせてもらうつもりだ」
「マッキース…ありがとう…」
エルドとマッキースは固い握手を交わした。憎しみを越えて、二人は強い信頼で結ばれた。
「でもさ、どうやって神界まで行くの?」
「街の人に聞いたんだけど、精霊の森にある狭間の洞窟から行けるらしいぜ。…地図によると…ここから南東の方角…だな」
「今日はもう遅い。明日出発だ」
「エルド」
アリスがエルドを呼び止めた。エルドが振り返る。
「何だ?」
アリスはエルドにアレンと会ったことを話そうか迷った。だがアレンが、自分と会ったことは秘密にしてくれと言っていたことを思い出し、口をつぐんだ。
「アリス?」
「あ、その…この髪型、変じゃないかな?」
「…よく似合ってるよ。今夜は冷えるから風邪をひくなよ」
素っ気なく答えるとエルドは、宿に入って行った。
アリスはしばらくその場に立っていた。濃い藍色から、漆黒に変わった空を見上げる。
旅の終わりが近づいている。この旅が終わったらエルドと別れなくてはならないのだろうか。そんな思いを抱えながら、アリスは宿の扉を開けた。